サウダーヂな夜

恐怖の池田。

  • BID63|2017年05月08日


中国自動車道の池田インターチェンジを降りる時、「池田」とつぶやくと大阪人の両親に「池田ちゃう。いー、けー、だっ!」といつも訂正されていた。そのおかげで、大阪の人はイントネーションを命の次に大事にしていると思っているので、口に出すのも命がけだ。センター試験でやったinterestingのイントネーション問題くらい、毎回同じところで悩んでしまう池田。それなのに、昨日ほど「池田」に難儀した日はなかった。

池田にあるギャラリーに個展を観に行くために私はひとりで大阪へ向かった。大工の田中さんから借りた本をバスの中で読んでいると、大阪の人は方言よりもイントネーションが大事みたいなことが書かれていて、私はふと「池田」の発音について思い出した。よりによって、私が特に苦手とするイントネーションではないか…。いけない、これは尚のこと慎重にいかなければならない。溢れ出す動揺を隠しながら阪急電車の「池田〜池田〜」のイントネーションを胸に刻んで、目的地のギャラリーまで歩き出す。

いけだ・いけだ・いけだ…。公園のそばを通って、子供たちが「池田」と発音するのを確認して、いけだ・いけだ…。いいぞ、この調子だ。傾斜が急な道を登りながら、池田を体に叩き込む。すると坂の途中で「CIGARETTE」のいけてるフォントを見つけた。お、いいですね、と思って写真を撮っていると、その横には古びた避妊具の自動販売機。こんな閑静な住宅街に!こんなん残してるんですか!思わぬトラップに、私はすっかり池田のイントネーションをすっとばかしてしまう。

しまった…。それからは散々だった。池田のとあるギャラリーはとても素敵なところだったのに、池田の発音に自信を失くしてしまったせいで、私は他のお店の人に会っても、そのギャラリーのことを上手に説明することができなかった。「どこにあるんですか〜?」って聞かれるたびに「池田…、池田?」と急に口ごもってしまう。別に私は岡山人なのだから、そんな小さなこと気にせずに「池田」と言えば済む話なのだが、池田のイントネーションは呪いのようになって1日中私につきまとった。

梅田から四つ橋線に乗った時、いかにも競艇へ行きそうなおっちゃんが「これは住之江公園行くんかな。」と色んな人に聞いてはスルーされているのを不憫に思い「おっちゃん!ちゃんと住之江公園行きますよ。」って遠くから声をかけた。こういう大阪テンションへの適応力くらいはあると思い込んでいたけど、まさかこれほどまで池田のイントネーションに縮こまってしまうとは思っていなかった。まるで「パリに来たならフランス語くらい話しなさいよ。」ってフランス人の洗礼を受けているような気分だった。

岡山に戻ってきて池田の呪いから解放されると、私は何をそこまで思いつめていたのか途端にアホらしくなった。だけども結局、池田のイントネーションはうやむやなまま。またきっと次に大阪へ行く時に同じこと思うんだろうな。ああ恐るべし、池田。

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香具師 Profile

きり

サウダーヂな夜スタッフ

ひょんなことから毎週日曜日「サウダーヂな夜」の昼営業にて働くことになりました。城下をぶらぶらする際には、ぜひ私の話し相手になってください。もしくは面白い本もあるのでふらりと読書に寄っていただけたら。

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